Shinobi

 

積雪地で鹿に忍びました。

 

積雪地での追跡や動き、持ち物などの様子を簡単に記録しておこうと思います。

 

3月末ですが積雪地で鹿に忍びました

 

猟期中はほぼ猟に行けなかったのですが、無積雪地で調査とか個体数調整などの仕事があったので、獣を追いかける事自体はやっていました。南信州は降雪が少ないので僕は積雪地での経験が少なく、どちらかというと砂漠地帯での経験が多いです。良い機会だと思って雪中で追跡してみました。今回は南アルプス山麗の北西側・標高1200mから上で鹿を追いかけましたが、1700mくらいまで上がると、膝くらいまで雪があるのですね。粉雪の中を歩くのは気持ちが良かったです。

地域によって狩猟期と有害駆除の期間がある

 

長野県の銃猟は2/15まで、罠猟は3/15までできるのですが、僕の住んでいる地域は3/16以降、銃での有害鳥獣捕獲が許可されています。隣県ではまた違う期間が設けられています。

積雪地ではこんな格好

・白手ぬぐい

・白ヤッケ上下(防水シリコンスプレーをかけていて、擦れる音などの防音にも役立つ)
・白ミトンと白軍手

・白ザックカバー(白ヤッケを切って作った簡単なもの)

・白テーピングを巻いた猟銃(薬局のもの)

・白ガムテープを無線機やナイフなどに貼り付けたもの

・白くした携帯スコップ(重くなるが獣の埋設に必要)

・猟友会ベスト(安全のためと、有害駆除の時は着用する決まりがある)

・スパイク長靴と厚手のウール靴下

みんな近くのホームセンターなどで安上がりにそろえました。写真はお店のもの。

 

追記です

一般の方にはよく誤解されるのですが、この前北陸で仕事していた時は「パ○ウェーブ研究所」の関係者ではないかと疑われてしまいました。(2018.01.20)

持って行かなかったけど

 

スパイク長靴だからいいかと思って、かんじきは持っていかなかったです。ブーツの時ならアイゼンは携帯しています。

おしろいも考えましたが

 

顔も白くしようと思って、白のフェイスマスクを考えましたが、肌や耳の感覚が鈍くなり、暑苦しいのでやめました。代わりにおしろいでも塗ってみようかとも考えましたが、人に会っても困るし、滑落や遭難など何かあって、発見されたときの死に顔がお間抜けになってしまうのを恐れてやめました。

白い色は意味があると思う

 

積雪期の生き物は白色が多いのでそれを見習います。積雪期の白色はコントラストの差を押さえてくれるので、色盲の動物相手でも有効だと思います。

 

オレンジベストは着用です。

新しい足跡

 

朝9時頃、続く鹿の足跡を見つけました。

 

まだ足跡はやわらかく、そんなに融けてもいない新しい感じで、足跡の数やトレイルの幅、分岐の仕方などから群れのようです。

 

足跡は一定の間隔で続いていて、ゆっくり歩く Walk という足の運びだと分かり、緩い斜面を南へトラバースしています。

色々な痕跡

 

ちょっと足跡に付いて行くと、糞や尿が何箇所か落ちていました。

 

糞は柔らさや湿り気、粘り気っぽいものがまだある新しいものです。

 

体毛もずっと足跡に沿って落ちています。

鹿は見えないが

 

僕の目では、遠くの林内まで鹿を発見できなかったのですが、鹿はそんなに急いでない感じだったので、僕もゆっくり進みます。

 

最初の標高1200mくらいは雪が融けていて、歩くと嫌な音がするのでとにかくゆっくり、止まったりしながら動きました。

 

い、いい、いた~!

 

と言う感じに見つけた瞬間興奮はしなかったです。

 

目の前に尾根があったので、その先の開けたところに鹿がいるかも知れないと思い、ゆっくり尾根の先を覗き込みました。最初は何も気が付かず普通に進もうとしましたが、"なんとなく"気になった倒木のようなものが視界の隅に入りました。スコープで確認してみると、メス鹿の頭で、付近にも5頭ほどいました。150mほど離れていて20m程下のほうです。

意識していないと気が付かない

 

じっとしている動物は自然と一体化しています。意識していないと気が付かないです。まあ僕の場合、意識して自分で見つけたというより、単なる偶然でしかないですが。多分。

近づかなければ

 

群れの観察や、射撃位置の確保、正確に一発で即倒させる事など考えるともっと近づかなければと思いました。最初が150mくらい離れていて、四つんばいになってゆっくり時間をかけて近づき、鹿より上側70mくらいまで近づきました。もちろん状況にもよるのですがライフルであればこんな事はしていないです。逆にショットガンだから、こういった事を学べるとも思います。

群れ

 

目視できる鹿は8頭で、全て雌に見えます。3頭くらい1歳前後の子鹿がいて、あとは大人に見えました。群れの後方・僕に近い2頭だけ一切動かず、ずっとこちらに顔と耳を向けていて、他は餌を食べたり動いています。

 

やるとしたら、この2頭だと感じ、緊張を感じました。

狙う相手の違い

 

相手の数を減らすための捕獲なら、群れの中の強い=高い警戒心を持った個体を狙います。1頭目をうまくやれば、2頭目、3頭目と射撃の機会が得られます。

 

もしこれがサバイバル生活の中で自然との調和を考えるなら、弱い=警戒心の低い個体、小さかったり病気の固体を間引きます。自然界では普通ですよね。

いざ狙撃!

 

確実に撃てるポジションを確保できました。バックストップも大丈夫です。実際には斜面に背中とお尻をつけて撃ち下げる感じでした。

 

確実に首の付け根を射抜ける ! と写真のようなスナイパー気分でかっこよく狙いを定めたのですが…

 

尻から滑ってしまい…

 

撃とうとした瞬間、滑り台のようにゆっくり15mくらい下に滑ってしまい、銃の保持や安全装置やらでなんか止まる事もできず…

 

鹿の目の前でようやく止まって、お互い「あっ」みたいな感じで見つめ合っていました。ちょっとして僕が笑ったので、鹿は「ピャ」っと鳴いてみんな逃げてしまいました。11頭見えました。

 

とりあえず銃から弾を抜いて仰向けになり、慣れない環境は気をつけないといけないと感じました。事故しなくてよかったです。

また追いかけました

 

ちょっと休んでまた追いかけ始めました。最初の100mくらいはGallopという写真のようなジャンプが入る走り跡が続きましたが、すぐに通常のゆっくりなWalkになって続いていました。

 

自然界で全力で逃げる事って本当に少しの時間と距離だけです。特に冬は飢えているし、雪と気温で体力は奪われ、子供だってつれているのだから、本当に大変です。野生の生き物はほとんど歩いたり座ったりじっとしています。

 

その後、2回ほどスコープに捉えて撃つ機会もあったのですが、追跡と観察することに夢中になっていました。

 

ちなみにですが、最終的に道のり十数キロの大きな円を描いてシカ達は動いていました。 

ペロリ…あの鹿は…

 

しばらく追いかけたり観察していると、なんとなくですが特定の固体を識別できるような気がします。体の大きさとか警戒の仕方とかの雰囲気なのですが…まあ分かった気がしてるだけですね。

 

今回も常に群れの後ろにいる鹿で、写真のように常にこちらを注意して気が付いている感じでした。

完全に僕の私情ですが…

 

その鹿があえてみんなの殿を務めていて色んな覚悟をしている、すごい強くて良いヤツなんじゃないかなと思えてきて、最後は撃つこと自体忘れていました。鹿は臆病で馬鹿で仲間をかばう事もないでしょうが、そうじゃない例外もあったらいいなあと思います。十分追跡の練習をさせてもらったし、命まで貰う事はないかと思って下山しました。

 

鹿を捕らないと増えて、農林被害や土砂災害に、彼ら自身の餓死にも繋がるという理屈もわかるのですが、人間都合の話しで好きではないし、ちゃんと捕獲するときもまああります。

 

こんな事を考えてしまうので、僕はいい猟師にはなれないかもしれませんね。

 

海外で追跡術を教えてくれた先住民の老人は、追跡していく中で相手のことがどんどん分かってきて、まるで自分自身のようなよく知っている親しみのある存在に感じてくると話してくれました。だから肉を捕るときは究極的な必要性がなければいけないし、迷いがあってもいけないと教えてくれました。その人は晩年、短焦点35mmくらいのフィルムカメラをもってフォトハンティングに力を注いでいて、動物の顔のドアップ写真をいくつもとる凄腕でした。僕もあの人みたいになりたいものです。

積雪地での追跡は

 

僕は写真のような砂漠地帯で追跡を学んだのですが、積雪地の方が追う事自体は簡単だと感じました。逆に追われる側となると積雪地は難しいです。環境も厳しいですし。

 

基本は同じで、痕跡の時間経過を測ることや、探し方、動き方、注意の仕方、動物の動きなど、砂漠地帯でも積雪地でも、同じかとても似ていて、相反するものではないです。

追跡できることの強み

 

追跡できるという事は、敏感で鋭い感覚を”自然に”使えるということで、その感覚が瞬間的な危機から自分を守ってくれます。理論的な思考では対処できないような状況でもです。

 

特にハンターになる必要はないし、ハンターでなくても追跡術を心得ている人はたくさんいます。特別な専門家である必要は無く、趣味で自然観察や写真撮影など楽しんだり、自然との繋がりを持てばいいです。

教室では

 

教室では以下の事をやっています。「教室」のページにも詳しく…もないですが、いろいろ書いてあります。

・基本的な生存技術

・自然観察の方法

・自然の中での動き方

・痕跡の識別や追いかけ方

・自然の中で役立つ道具など